23 配偶者の遺産を相続できない問題
配偶者の遺産を相続できない問題
子のない夫婦が築き上げた財産は夫が死去した後、残った妻のものになるのか。今回は人が亡くなった時、誰がその人の財産を相続して取得できるか、について説明します。
では、冒頭の問の答えですが、場合によっては妻単独のものになるが、場合によっては他者との共有になる、ということになります。自分達が建てて、長年住んできた家や敷地が、単独で取得できないという、なんとも理不尽な結果になることも、普通にあるということです。次の項で実例を挙げて説明していきます。
婚姻後、夫婦で家を建てました。土地と建物の登記の名義は夫です。40年間住み、ローンを払い終わりました。その後、夫は亡くなりました。夫婦には子どもはいませんでした。夫の両親も既に他界しています。妻は相続人は自分だけで、遺産の全ては自分のものになると思っています。しかし、亡夫に兄弟姉妹がある場合、簡単にそうはいきません。それらの人が(実質上の)放棄をしない限り、自分だけのものにはならず、それらの人と共同で所有することになるのです。つまり、兄弟姉妹と、またはその人が夫より先に亡くなっている場合などは、その人の子(亡夫からみれば甥や姪)と協議して、亡夫の遺産を誰が実際に相続するか決めないといけません。どうして兄弟姉妹(または甥や姪)が出てくるのか。民法で相続できる人とその順番が定められて、兄弟姉妹も場合(被相続人に子がなく直系尊属も死亡しているとき)によっては、相続人になり得るからです。具体的に言うと、配偶者は常に相続人となりますが、被相続人に子がいない場合は、親などの直系尊属も相続人になります。直系尊属が死亡している場合は、被相続人の兄弟姉妹が繰り上がり、配偶者と共に共同相続人になります。このケースで言うと、本来ならば妻と夫の直系尊属である父母や祖父母が、共同相続できますが、父母や祖父母は既に亡くなっています。そこで、次順位の兄弟姉妹が、妻と同じく夫を相続ができる地位にきます。相続分でいうと、妻が4分の3で、4分の1が兄弟姉妹の分です。もし、兄弟姉妹がもともといなければ、完全に妻のものとなっていました。本ケースでは、夫は80才で10年前に亡くなっています。その兄弟姉妹は4人いて3人は夫の死亡後に他界(その配偶者と子は健在だが交流なし)、兄弟姉妹の1人は高齢者施設に入っています。遺言書もない状況なので、夫の兄弟姉妹や死亡した兄弟姉妹の配偶者や子たち(総勢8人程)と遺産分割協議をすることは、現実的にまず無理です。他の方法も考えられません。しかるに、現在において、妻は当該不動産の共同相続人(持分4分の3の共有者)という地位(権利)しか取得できていません。今後、当該不動産を処分するにあたっては、共有であるために困難となることは自明であります。
では、このケースのような場合に妻が当該不動産を完全に自分の物として、取得するにはどういう方法がある(あった)のでしょうか。
まず、遺言という方法があります。本人が生前中に自分の死後、財産を誰に、いくら、どのように取得させるかを遺言書という書面に残し、その意思を実現させる方法です。これをすることにより、残された者が費やすいらぬ手間や労力を省けます。遺言の方式としては、公正証書によるものと自筆証書によるものが一般的です。どちらも長短がありますが、自筆証書による遺言の方は法務局の遺言書保管制度があります。これを利用すれば、後の家庭裁判所の検認が不要という利点があります。
次に、遺言以外の方法として、贈与により財産を取得(移転)させることができます。一般に生前贈与と言われています。ただ、これは贈与税や不動産取得税が絡むことなので、その制度や特例を十分理解して、よく検討して行うべきでしょう。以上が死後に遺産分割協議の成立が困難と予測できる場合に、本人が生前中になし得る代表的な方法です。
今回は配偶者の遺産を相続できない事案を説明しましたが、これに関連する遺産分割協議が困難な事例を挙げます。第一順位の相続人である被相続人の子が単独相続(遺産分割協議)できない場合です。例として、被相続人(父)に前妻の子や認知した子がいて、その人と全く面識がない場合や、そのことすら知らない場合など。もし、遺産分割協議を成立させたいならば、多大な労力、時間、費用がかかることでしょう。いずれにしても、将来、親や配偶者が亡くなった時に、自分以外の相続人が誰であるかを把握しておくことが重要です。もし、身近でない人や全く知らない人が推定相続人であると分かった場合は、親や配偶者が存命中に、先述の方法など何らかの手立てを講じてもらうことが賢明でないかと思います。