15 法定相続分登記後の遺産分割
法定相続分登記後に遺産分割協議があった場合
被相続人の死亡に伴い、遺産の分割協議の前に共同相続人が法定相続分で相続登記をした後、遺産の分割協議が整った場合の登記の仕方について説明します。
通常は遺産分割の協議が整うまで、不動産の相続の登記はしないものです。ですが、何らかの理由により、対象不動産につき被相続人の法定相続人全員が共同で相続した形の登記(法定相続分の持分で共有である旨の登記)を先行して行っている場合もあります。事後、そのままにしておくこともありますが、当該不動産の遺産分割協議が整い、単独(または数名の)相続人が確定し、その旨の登記をすることもあります。また、遺産分割以外でも相続放棄、特定承継遺言、遺贈を原因として、不動産の所有権を取得した場合もありますが、本稿では遺産分割により、所有権を取得した場合について記述します。
法定相続登記後に遺産分割があった場合、令和5年4月より、その登記の申請方法が変更されています。法令に伴うものでなく、通達に基づく法務局側の取り扱いの変更です。以前より相当、簡略化されたことで、相続人にとっては有利な変更となりました。
具体的には、遺産分割等で相続が確定した相続人が他者の関与なしに、元の法定相続の「更正」登記を申請できる点です。つまり、法定相続人数人の共有であった元の登記につき、実際に相続人となった者だけに変える更正登記の申請を、登記権利者である自分だけで、単独で行えるということです。更正登記は本来、共同申請で登記義務者の関与は必須ですが、これは例外の取り扱いとなっています。登記上、表れている他の法定相続人が、関与して共同で申請する必要はなくなりました。
令和5年3月31日までは、登記権利者と共に、登記上表れている法定相続人全員が登記義務者となって、持分移転登記を申請する必要がありました。登記の原因は遺産分割が確定した日をもって、「年月日遺産分割」で、登記の目的も「移転」登記の形式をとっていました。そして、その効力が被相続人の死亡日に遡ることはありませんでした。
今回の取り扱い変更により、登記の目的が移転から更正に変わったことで、遺産分割の場合その効力は被相続人の死亡時に遡り、民法の規定に合致することになったのです。また、添付情報も単独申請となったため、登記義務者の印鑑証明書、登記識別情報は不要となり、登記原因証明情報である遺産分割を証する情報だけとなりました。そして、登録免許税の方も登記の目的が更正に変わったことで、以前よりも相当安くなりました。なお、登記の原因は「錯誤」ではなく、「年月日遺産分割」となります。
本年4月からの相続登記の申請義務化に伴い、法定相続の登記だけを先に済ましておくということが、増えるのではないかと予想します。そして、その後に遺産分割の協議が成立した際に、相続した人が登記の名義を自分に変える申請も義務となってきますので注意が必要です。いずれにしても、今回の取り扱い変更により、その際の申請義務の履行は格段にしやすくなることでしょう。