21 相続登記の申請義務と過料の実際

相続登記の申請義務と過料の実際

本年41日より不動産登記法が改正され、相続登記の申請が必須(義務)となりました。内容については、本ホームページでも「相続の登記について」で概要を簡単に触れているところです。本稿ではタイトルに即して、相続登記の申請義務とその義務に違反した場合に科せられる過料の実際のところ(ポイント)について考察していきます。
まず、登記申請の義務についてです。間違いやすいのですが、登記の義務でなく登記申請の義務です。登記というものは、登記官が行うものであり、それを発動さすのが申請という行為です。亡くなった人(被相続人)から不動産を相続した相続人その人が、(その事実を登記簿に反映させるために)登記を申請するという行為、が義務ということです。では、その義務が誰に対して課せられるのか(以下、法定相続分の登記の場合)。これは相続を原因として、不動産の所有権を取得した相続人それぞれが対象となります。そして、その人は自己のために相続が発生し、それにより不動産を取得したことを知った日から3年以内に、その不動産についての相続登記を申請しなければなりません。ここでのポイントは「取得したことを知った日」という文言です。例えば同居している親が死亡した場合、その配偶者や子どもは当然としてその死を知り、それにより自分が被相続人の不動産を含めた財産を相続できる地位にあることを知る(認識する)でしょう。この場合にはその認識した日(普通なら被相続人の死亡日)から義務は発生します。同じ親でも疎遠になっている場合などは、その死亡の事実さえ知らないこともあるでしょう。この様な場合は、相続人が被相続人の死亡を知り、相続すべき不動産があることを知るまでは、義務が生じないということです。また別の例として、両親が既に亡くなっている場合、その子どもが亡くなったおじやおばの相続人となる場合があります。この場合、被相続人が死亡したことを知っていても、自分に相続権があることを認識していなければ、(法律上、相続分を取得していても)、当人がそのことを認識し、相続すべき不動産があることを知るまで、義務の対象から外れるということです。ここまでをまとめると、義務が課せられるか否かの基準は、人の死という客観的な事実に基づくものではなく、相続人側の個人的な事情(知るということ)が関わるということです。そうすると、明治期以降、遠い過去に発生している相続で、その登記がされていない不動産の大半は、(当人が知り得ることがほとんどないであろうため)義務の対象外であろうために、未来永劫、登記されることはないかと思うのですが。
次に10万円以下の過料についてです。この過料は誰に科せられるのでしょうか。つまり、登記申請義務を履行していない者は、全員一律に10万円以下の過料が科せられるか、または一部の者に限定されるのか、ということです。答えは一部の者だけに科せられる、ということです。では、その一部の者はどのようにして、誰に決められるのでしょうか。その一連の流れを説明します。
まず、登記官が何らかのきっかけで、その者が義務を履行すべきなのに、それをしていない違反状態であることに気づきます。そして、その者に登記申請すべき旨の催告の文書を送ります。それを受けた者が期限内に正当な理由を申告せずに、登記申請もしない場合には、登記官は裁判所に義務違反の旨通知します。その後、裁判所によって、いくらの過料が科せられるかが決定し、それによって当人が過料を支払うことになります。整理すると、登記官が義務違反を知り、登記官が違反者に催告し、正当な理由なく、催告通りに登記申請しない場合に登記官が裁判所に通知し、裁判所にて過料の決定をすること、となります。ここでのポイントはの段階で、相続人が義務を果たしてない事実を、登記官が職務上知り得なければ、知り得るまで過料に処せられることはない点です。つまり、登記官にその事実を知るためのきっかけ(端緒)さえ与えられなければ、以降のことはなされないということです。つまり義務違反の状態であるが、過料に処せられる可能性はないということです。(但し、現在の運用が変われば違ってくるかもしれませんが)その端緒の例も法務省の通達に列挙されています。2点ありますが、まとめると、相続登記の申請を行った者で、遺言書や遺産分割協議書の添付情報から、申請していない物件(申請漏れ)があると登記官が知り得た場合です(遺言書や遺産分割協議書を基に所有権移転の登記の申請をしているが、取得をする人は同じなのに、A不動産は申請しているが、B不動産は申請をしていない場合、例;宅地も山林も遺産分割協議書で甲が取得することになったが、宅地については所有権移転登記の申請をしているが、山林については申請していない場合)。これは限定列挙ですから、これ以外のきっかけ(例えば他人の通報や自治体の固定資産税納税状況等)で知り得たとしても、現在の運用では催告はできません。要するに、義務違反の状態であろう相続人側が、自ら(相続した一部の物件についての登記)申請という行為をしない限り、端緒となるものはないのです。また、実際にこの通達の要件に該当する事案は、現実的には少ないような気がします。もし、要件に該当し催告が来たとしても、慌てることはありません。催告に応じて登記申請さえすれば、過料を免れることができます。もしくは、真に登記申請できない理由があるならば、それを申告して、登記官にその正当性が認められれば、裁判所に通知されることはなくなり、過料の心配は消えます。では「正当な理由」と認められるのは、どの程度の理由なのでしょうか。例としては、何代にも渡って相続が生じていて、相続人が多数でその把握が困難、戸籍収集に時間がかかる、重病である、経済的に困窮している、などが法務省の通達に明示されています。その申告理由の裏付けもいるようですが、申告を受けた側がどこまで厳格に判断し、認定するかは不明です。ただ、この例を見ると、特定の物件だけを登記申請しない人が主張する理由としては、合理性を感じられません。(全く登記申請をしない人の理由なら分かりますが)。
さて、今般の法改正により相続の登記を申請する人は、間違いなく増えることでしょう。なぜなら、今まで任意であったものが強制になり、また、過去のものも対象になるからです。加えて、法律が罰則(10万円以下の過料)付きの規定を設けていることも、義務履行の促進効果を大きなものにしているでしょう。
以上、本記事では(極力私見を抑えて)、相続登記の申請義務と過料の実際につき検証しました。
最後に、相続というものは人がその人生において、誰もが遭遇する現実です。とりわけ、亡くなった人が不動産を所有していたならば、残された親族はその相続に起因する一切のことに関わっていかなければなりません。そして、その不動産が利益を生じさせることなく、負担ばかり負う遺産となることもあります。たとえ、そのような負の遺産であろうとも、相続放棄をしない限り(または、遺産分割協議により他の相続人が相続しない限り)受け入れざるを得ないということです。いずれにしても、自らが不動産を相続する立場になったときは、避けようのない現実だと割り切り、その登記を早めに済ましておくことが重要なことだと、ご認識いただければと思います。

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