20 登記申請の補正、取下げ、却下について

登記申請における補正、取下げ及び却下について

今回は登記申請における補正、取下げ及び却下について記述します。
まず、補正について述べます。登記を法務局に申請したとします。通常、一週間から二週間程度で、処理は完了します。(早いところは4日ぐらいで終わります。)申請が登記官に受理され、登記が実行されたということです。登記を出した側は、ここで安心できるというわけです。
しかし、時に処理がなかなか終わらない場合があります。第一次の審査が終わった時点で(最終段階の時もある)、処理の続行を留保している場合です。更にこのケースは二通りあります。①その申請に明白な却下事由がある場合と、②明白とまではいかないが、却下事由に該当する疑いがある場合です。①の説明は後にして、先に②を説明します。
②は審査の過程において、担当者がその申請の中身に何らかの疑義を抱き、受理することを躊躇している状態です。単に担当者の知識不足等の個人的技量によるものもあれば、根拠が見つからない難解な事案、担当者や登記官限りでは対処できないもの、あるいは部署単位でも対処できないものあります。最終的には、要する時間の差はあれ、何らか結論は出ます。それまでの間、申請者は不安な気持ちを持ったまま、置き去りにされます。通常は1日、2日あれば、結論は出ます。よい結論(特に問題なしの場合)が出れば、近日中の登記の実行が確保されますが、よくない結論(問題ありの場合)ならば、補正、取下げ、却下のどれかとなります。
次に、①の説明をします。申請のある点が却下事由に該当するが、それを申請人が是正するにより追完され、受理されことになる、ただし、放置すれば却下処分となる状態、ということです。申請書類の書き誤りや書き漏れの類が多く、添付する書類が足りない、登録免許税が足りない、などもあります。すぐに、是正できる状態でないといけません。補正指示に従い期限内に是正すれば、却下状態は治癒されて、正当な申請に変わり、登記の実行へと進むことになります。
補正に絡むこととして、過去にこういうことがありました。持分一部移転登記の申請の課税価格と登録免許税が一桁、間違っている、申請書を訂正し、登録免許税を今の9倍追納しなさい、という補正連絡でした。(2万円を納めていたが、10倍の20万円が正しいので、差額の18万円足りないと)こちらは、十分な確認のうえ自信を持って出しているので、聞いた直後はどういうことか合点がいきませんでした。が、すぐに気づきました。言っている人こそ、誤っていると。相手が、登記の目的◯持分一部移転(移転する持分は10分の1)を看過して、所有権移転と思い込み、課税価格と登録免許税に誤りがあると思ったのです。(正しくは、課税価格と登録免許税は、移転する持分に比例した金額となる。移転する持分が10分の1ならば、納める税も10分の1で済む。)すぐに、こちらがそのことを指摘し、相手も間違いに気づき、事なきを得ました。しかし、この出来事をよくよく考えると、非常に恐ろしく罪深い話です。素直に補正指示に従っていれば、他者が気づかない限り、不要な税金を納めて大きな損失を被っていたからです。法に基づく適正な行政執行を担っているはずの役人にも不注意や思い込みに起因する誤りがあるので、言われたことはまず疑い、その真偽を自ら判断すべきということを再認識させられました。
では、登記の申請を出して、補正の通知(連絡)があった際、心得ておく点をまとめます。まず、補正すべき内容をよく見て(聞いて)、それが正当なものであるか否かを見極めることです。そして、補正に応じるならばその指示内容に得心する(自分の申請に非があることを認め納得する)ことです。反対にそれを不当と判断すれば対応することはせずに、相手に合理的な説明を求めることです。先に述べたように、補正指示の根拠や理由が、相手の思い違いや知識不足に起因することなども、まれにあるということを忘れてはいけません。また、相手の言う理屈とこちらの考えが、全く相容れないこともあります。どちらにせよ、よく考えて対処することです。納得できなければ、従うことはないでしょう。いずれ、却下されることになるでしょうが。ともあれ、こちらとしては、その過程がどうであれ、登記が完了することが目的です。その結果しか求めるものはありません。登記が不首尾に終わることは、一分の利益ももたらしません。ですから、不本意ながらもある程度の譲歩や妥協は必要なことかもしれません。
ここまでは主に補正について述べましたが、後半は取下げと却下についてです。先に取下げについて述べます。先述の通り、補正はそれをすることにより登記の完了が見えてきます。いわば、建設的な行為です。一方、取下はせっかく出した申請をなかったものにする、手間ばかりかかる後退的な行為です。出した申請に、補正では対処できない本質的かつ、致命的な誤り(補正では却下要件に該当することを解消できない程の誤り)があった場合に、却下を待たずに、申請者が自発的に撤回する行為が取下げです。例えば、申請する登記に法律上、無効となることが分かる場合、登記義務者の登記の住所が印鑑証明書と相違する場合、申請人となるべき者が違う場合、などです。手続きとしては、申請した者が取下書を作成して、申請した法務局に提供する必要があります。依頼者の要請ならば仕方ありませんが、今のままでは申請が受理されないから、取下げるという行為は代理人が登記のプロであるならば、絶対に避けたいものです。
さて、申請に不備がある場合、法務局側としては却下ではなく、なるべく補正で対処したい都合があります。しかし、それではどうにも対処できないときに、申請人に取下げの依頼をしてきます。また、取下げないといけない理由も言ってくれるので、事後、何をすべきか、再申請できる道筋はつきます。なお、前半の補正のところでも述べましたが、法務局側が示す取下げを促す理由や根拠に、自分が納得してから取下げを行うべきです。根拠に乏しく、不合理な理由しか説明できないなど、得心できないならば、特段の事情がない限り、応じることはないと思います。放置すれば、その後は却下に移りますから。
却下とは、登記官が申請人に対して、その申請を受理しない決定を出す処分行為です。これにより、登記がされないことが確定します。書面でなされ、理由(法律上の根拠)も示されています。申請人の意思とは関係なく、行政庁である登記官が行う一方的行為です。それをする側は、それなりの時間と手間がかりますが、される側は待っているだけで、そのうちに決定書(返却物も)が送られてきます。これで完結です。また、その処分に不服がある者は、権利の登記では、監督(地方)法務局の長に審査請求(処分した登記官経由で)をすることもできます。滅多にないでしょうが。司法書士が登記申請を代理で出した場合、却下の段階までいくことは、殆どないと思います。なぜなら個々の事情、利益、損失等を衡量し、また法務局の意向(懇願)を酌み、先に取下げをするからです。
以上、長文となりましたが本稿では登記申請における補正、取下げ及び却下について記述しました。一般の方にはあまり関係のない話かもしれませんが、登記を申請することを業にする司法書士にとっては、大きく関わるものです。今後、自分にとってこれらの行為が縁のないものであることを願望するばかりです。

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